大判例

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神戸地方裁判所 昭和60年(ワ)1706号 判決

原告

カネキ酒販株式会社

右代表者代表取締役

北野桝造

右訴訟代理人弁護士

大川哲次

被告

山本菊男

右訴訟代理人弁護士

吉井正明

主文

一  被告は原告に対し、金一二一万二〇四〇円及びこれに対する昭和六〇年九月一六日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  主文一、二項同旨の判決

2  仮執行宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告会社は主として酒類、調味料等の卸売、小売を業とする会社であり、他方被告は「ステーキアンドラウンジやまもと」という屋号でステーキ店等を業とするものである。

2  原告会社は昭和五九年一二月二一日から同六〇年八月一三日までの間被告に対し酒類、清涼飲料水、調味料、米を代金合計金一八二万一六二五円で売渡した。

右代金の支払時期は、毎月二〇日締切りの翌月一五日払いの約定である。

3  しかるに被告は原告会社に対し、右代金の内金六〇万九五八五円の支払いのみしかなさない。

4  よつて原告会社は被告に対し、右売掛残代金一二一万二〇四〇円並びにこれに対する履行期の後である昭和六〇年九月一六日から完済に至るまで商法所定率である年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項のうち、原告会社が主として酒類、調味料等の卸売、小売を業とする会社であることは認め、その余は否認する。

2  同第2、第3項は否認する。

3  同第4項は争う。

4  「ステーキアンドラウンジやまもと」の経営者は訴外山崎喜美子であり、原告会社は訴外山崎と酒類等の販売をしてきたものである。被告は、同店の経営者でもないし、原告会社に対し債務を負担する理由がない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一原告会社が主として酒類、調味料等の卸売、小売を業とする会社であることは当事者間に争いがない。

〈証拠〉を総合すれば、原告会社は、昭和五九年一二月二一日から同六〇年八月一三日までの間、営業許可名義人が山崎喜美子、屋号が「ステーキアンドラウンジやまもと」というステーキ店(以下本件ステーキ店という)に対し、酒類、清涼飲料水、調味料、米等を代金合計一八二万一六二五円で売渡したこと、右代金の支払時期は、毎月二〇日締切りの翌月一五日払いの約定であつたものであり、原告会社は、右期間中本件ステーキ店から右代金のうち六〇万九五八五円の支払を受けたが、残金一二一万二〇四〇円の支払を受けていないことが認められ、これに反する証拠はない。

二原告は、本件ステーキ店の実質的経営者は被告であると主張するのに対し、被告は、同店の経営者は山崎喜美子であると主張して、当事者双方、右残代金の支払義務者を争つているから、これを判断する。

〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる。

1  本件ステーキ店は、神戸市中央区元町通一丁目一二―一三神戸プラザホテル地下一階にあつて、昭和五四年二月から「炉端焼やまもと」、同五八年一一月からは「ステーキアンドラウンジやまもと」という屋号で飲食店営業がなされている。

右飲食店営業の許可名義人は、いずれも山崎喜美子であり、同女が右営業を現実に経営しているものであるけれども、右各営業における屋号は被告の氏が使用されていて、山崎喜美子の名前は一切使用されていない。

右山崎は、昭和四二年ごろから被告と知り合い、そのころ自分の名前を参考にして「マキ」という屋号の美容院を経営していた。

右山崎は、被告からそれ相当の出資を得て、前記「炉端焼やまもと」を開店し、同店の経営が悪くなつて、昭和五八年一一月前記「ステーキアンドラウンジやまもと」に新装開店するようになつたが、右新装開店をするについても被告から資金を受けており、かつその屋号に被告の氏を使用するについて被告から許諾を得ていた。

2  被告は、貸金業等を目的とする有限会社山本エンタープライズを経営しているものであるが、前記「炉端焼やまもと」が開業されていた時代、その当時右エンタープライズの元町支店長であつた井川賀子がその名刺(甲第三号証)に、本店、支店の住所電話のほか、「炉端焼やまもと」の屋号、住所や電話番号を印刷して、これを使用していることを認容していた。

3  山崎は、「炉端焼やまもと」を経営した昭和五四年二月ごろから原告会社と酒類等の取引を継続し、その代金の支払は同店の売上げから捻出していたが、その支払のできなかった二回ほど被告から支払つて貰い、その状態は、本件ステーキ店を経営するようになつてからも続いていた。

すなわち、原告会社は、前記のとおり昭和五九年一二月二〇日から同六〇年八月一三日までの間、本件ステーキ店に対し、代金合計一八二万一六二五円相当の酒類等を売渡しているのであるが、右代金に、原告会社が本件ステーキ店に売渡した昭和五九年一一月分の酒類等代金五八万〇三〇三円を加えると、その代金の合計は二四〇万一九二八円となり、同年一一月分から同六〇年八月一三日まで本件ステーキ店から受領した支払金は一一八万九八八八円(前記支払額六〇万九五八五円に前記五八万〇三〇三円を加えたもの)となるところ、被告は直接原告会社に対し、いずれも被告振出名義の小切手で昭和六〇年六月三日二三万五〇〇〇円、同年七月四日二一万九一九〇円、合計四五万四一九〇円の支払いをなしており、右支払額は前記支払額一一八万九八八八円の約四割に当り、かつ被告は原告会社に対し、それ以外にも支払をしている。

4  本件ステーキ店の前記店舗は、山崎が昭和五四年二月ごろ櫻商事株式会社ほか二名から保証金一一五〇万円で賃借したものである。

しかし、被告は、右賃貸借契約において山崎の保証人となつているし、山崎が本件ステーキ店の売上げから賃料の支払ができなかつたときには、その支払をし、昭和六〇年八月末、同契約の賃借人名義を被告の妻山本久美子に切りかえ、前記保証金の返還を確保している。

5  さらに被告は、日時が不明であるが、本件ステーキ店の階上のスナックから水漏れがあつて本件ステーキ店が損害を受け、右スナック店から山崎を通じ、その損害金六〇万円を受領している。

6  原告会社は、「炉端焼やまもと」並びに「ステーキアンドラウンジやまもと」と酒類等の取引を開始した際、被告と酒類等の値段、支払時期あるいは什器備品寄贈の話をして、本件ステーキ店屋号の出所である被告が同店の陰の経営者であると信じさせている。なお、右両店が変わる時点で、アサヒビール神戸支店の担当者である伊藤健吾も、被告が本件ステーキ店の経営者であると信じ、被告と同店におけるビールの銘柄をキリンからアサヒに変える交渉をしている。

以上の事実が認められ、右認定に反する〈証拠〉は措信しない。

前記各認定事実によつて考えるに、本件ステーキ店は、その営業許可名義人であり、かつ現実に同店の経営に従事している山崎喜美子が表面上の経営者というべきである。しかしながら、被告は、右山崎が昭和五四年二月「炉端焼やまもと」や同五九年一一月「ステーキアンドラウンジやまもと」をそれぞれ開店するに当り出資をしており、その出資額は不明であるけれども、屋号に山本の氏を許容させるほどであるからそれ相当のものというべく、現に本件ステーキ店開業後も、原告会社に対し、同店の酒類売掛代金支払金額中、その約四割に当る四五万四一九〇円の支払をしている。そしてその一方、被告は、本件ステーキ店の賃借名義人を山崎から自己の妻山本久美子に切り換えてその保証金の返還を確保したり、本件ステーキ店水漏れ損害金六〇万円を受領するなどして、同店の収益分配にあずかつているものである。

そうすると、被告の出資額及び収益分配率は必ずしも明瞭ではないけれども、被告は、昭和五九年一一月ごろ山崎が本件ステーキ店を開業するに当り右山崎との間において、被告が同店のため出資をし、同店から生じる利益を分配することの契約(商法五三五条の匿名組合契約)を締結していたものと推認するのが相当とする。しかして、前記1、2、6の認定事実を総合すれば、被告は、本件ステーキ店の開業最初からその屋号すなわち「ステーキアンドラウンジやまもと」という営業者の商号中に、平仮名ではあるけれども、自己の氏を使用することを許諾し、かつ同店と原告会社担当社員との取引の初め、直接その交渉に臨んで、原告会社をして被告が同店の陰の共同経営者であると信じさせているのであるから、被告は商法五三七条により、山崎と連帯して、原告会社に対し、本件売掛残代金一二一万二〇四〇円及びその履行期の後である昭和六〇年九月一六日から完済まで商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

三よつて、原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、仮執行宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官広岡 保)

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